修繕積立金は"長期"均等積立方式をおすすめします

先日の臨時総会で承認をいただいた修繕積立金改定議案の大きなトピックの1つに、積立方式を均等積立に変更するというものがありました。更にいうと長期修繕計画の計画期間を大幅に伸ばしているので、今回はこの要素も合わせて長期均等積立方式と呼び、なぜこの方式にしたのかを記録したいと思います。

ちなみに、今回掲載する画像は臨時総会に先立って2回行った説明会で実際に使用したGoogleスライドから抜き出しています。画像もこの文章も素人の私が作ったモノですので、内容の正確性は保証いたしかねますので予めご了承ください。

よくある方式

割と多くの管理組合で採用しているのは、

  • 計画期間は30年
  • 期間内も段階増額積立になっている
  • 見直しの度に確定させるのはその次の見直しまで(5年間)の金額だけ

というパターンではないでしょうか。うちのマンションも改定前はこのパターンです。

前2点について計画期間を30年と60年、積立方式を段階増額積立と均等積立でマトリクスにするとこのようになります。

積立方式マトリクス

図にもありますが、国交省が出している長期修繕計画作成ガイドライン(PDF)では、計画期間は新築マンションでは30年を推奨しているのですが、積立方式についてはマンションの修繕積立金に関するガイドラインで"計画期間中均等に積み立てる方式(均等積立方式)"が望ましい方式と書かれています。よって、ガイドラインのおすすめを組み合わせると、図中では右上のパターンが相当します。よくある方式は左上のパターンで、ガイドラインのおすすめとは違っているのです。

そして段階増額積立方式については一時金徴収と同列に

将来の負担増を前提とする積立方式は、増額しようとする際に区分所有者間の合意形成ができず修繕積立金が不足する事例も生じていることに留意が必要です。

とまで書かれていて、注意を促されているような扱いです。

金額の決め方

修繕積立金額を決める際の条件に優先順位をつけるとすると、私は下記の順になると考えます。

  1. 積立金の累計額が長期修繕計画の支出累計額を常に上回るようにすること(必須)
  2. 計画期間をできるだけ長く取ること
  3. 均等積立方式にすること

実際に計画を立てる際には2→3→1の順に決めていくかとは思いますが、1は最も重要な条件です。

修繕積立金の累計額と長期修繕計画の支出累計額

修繕積立金は大規模修繕工事や設備(配管とか機械式駐車場とか)更新といった、計画的に行う工事への出費に備えるために積み立てます。もし積立金の累計額が支出の累計額を下回る状況になった場合は資金がショートした状態であり、予定された工事ができないことになります。対処としてはいくつかありますが…

  • 工事を部分的に取りやめたり、質を落としたりして支出を抑える

    • →経年劣化を改善できず、建物の劣化が更に早まる
  • 組合員から一時金を徴収する

    • →合意を取ったり徴収業務を行うのはとても大変
  • 金融機関から融資を受ける

    • →元の資金計画がよくない場合は融資を受けられないし、返済する分を結局組合員から徴収しなくてはならない

と、ろくな結果にはなりません。つまり、長期修繕計画で算出される支出の累計額を、積立金の累計額が常に上回るように資金計画を立てるのは当然であり、必須と言っていいでしょう。

計画期間をできるだけ長く

国交省のマンションの修繕積立金に関するガイドラインでは計画期間を新築マンションは30年、既存マンションは25年に設定との記載があり、管理会社はこれを基に計画期間を30年にした長期修繕計画見直し案を作成してくると思います。

よくある12年周期で大規模修繕工事を行う場合、初期の長期修繕計画と5年目に行う長期修繕計画の見直しでは36年目で行う3回目の大規模修繕工事が計画期間外であるため、1回目と2回目の大規模修繕工事は乗り越えられるような計算(下図)になっていると思います。

計画期間30年-5年目見直し

これが10年目に行う見直しでは3回目の大規模修繕工事が初めて計画期間内に登場するため、工事費の累計が突然跳ね上がります。

計画期間30年-10年目見直し

それまでの計画通りだと資金不足に陥るため、修繕積立金を更に上げる計画に変更する、これの繰り返しになります。

それであれば、計画期間を最初から長く取り、できるだけ多くの大規模修繕工事や設備更新を含めた計算をした方が、余程安定的な計画になるはずです。

均等積立方式へ移行

2つの積立方式(均等積立と段階増額積立)での累計額と、長期修繕計画での支出累計額をグラフにします。

積立方式別の累計

均等積立は金額が一定であるため、折れ線グラフでは直線になります。段階増額積立は金額変更できる箇所を5年毎にし、大規模修繕工事がある年の累計額をギリギリ超えられる金額に設定したところ、曲線に近いものになりました。最終的な積立金額は同じになるはずなのですが、月額の端数切りをした結果ちょっと誤差が出てしまっています。ここはちょっと無視してください。

段階増額積立は支出累計に近い線になるため、無駄なく徴収している印象があります。しかし実際にはいつも資金に余裕がなく、予定外の修繕が発生した場合に対応ができないという状態であるわけです。均等積立は比較的資金に余裕のある状態で推移するため、予定外の修繕に対応しやすくなりますし、余裕がある分ですまい・る債などを購入して更に増やすということもしやすくなります。

均等積立は金額が一定であることから、

  • 見直しの度に総会で修繕積立金額変更の議案を通す必要がない
  • 金額変更の際に発生しやすい管理費等の滞納を減らせる

という効果も考えられます。デメリットは「導入時の金額の上げ幅が大きいため、議案を通すのが通常より難しくなる」の1点です。「余裕が多いから簡単に工事を許可してしまう」というのをデメリットとして上げる人もいますが、それは資金計画上の問題ではないと考えます。

段階増額積立は後年になると均等積立より金額が高くなり、合意形成が非常に難しくなるので将来にツケを回す可能性が高いです。修繕積立金ガイドラインにもある通り、均等積立方式へ移行していくべきです。

積立方式と計画期間の組み合わせ

段階増額積立の場合

段階増額積立と計画期間2種

長期修繕計画の見直しで新たに大規模修繕工事が計画期間内に入った場合、新たに計画期間に入る5年の修繕積立金額を上げることに、あるいはその上がり幅が急すぎる場合は更に前の5年の金額も上げることになると推測します。それより前の期間を含めて金額を上げた方がよいのではと考えた場合は、段階増額の形を守ったまま全体の金額を上げていくより均等積立に移行する方が自然です。

また、支出の累計額に近い線を引くという原則通りに進めた場合は計画期間が30年でも60年でもあまり差は出ず、計画期間を延ばす効果はあまりないように考えます。

均等積立+計画期間30年の場合

均等積立+計画期間30年(累計)

計画期間が30年の場合、見直しで新たに大規模修繕工事が計画期間に入ってきた際には、その支出に耐えられないという事態が発生します。図の例は初期から均等積立にした場合で、初期で30年目の設備更新は耐えられる金額を設定したけど、10年目の見直しで36年目の大規模修繕工事では積立金不足が発生しているというものです。

この場合、積立金不足が発覚した時点で修繕積立金額の変更をすることになり、36年目の大規模修繕工事が実施できるようになるはずです(図の右側グラフ)。

均等積立+計画期間30年(年別)

これが48年目、60年目の大規模修繕工事に対しても起こる可能性はあるので、その度に増額していくと、頻度は少ないものの段階増額積立のように積立金額変更をする必要が出てきて、均等積立のメリットがやや失われる結果につながるかと考えます。

均等積立+計画期間長期の場合

均等積立+計画期間長期

計画期間を長期(例では60年)に設定した場合、それまでの全期間において積立金が上回ります。さらに60年目は12(大規模修繕工事)と5(設備更新)の公倍数であり、ここの上がり幅は他より大きいので、その後の見直しで発生する大規模修繕工事などもこの直線のままで割とカバーできるのではないかと考えます。

なお、うちのマンションの場合は管理会社から「マンションの寿命は60年程度で考えている」と言われたので、それより後の計画は今後しばらく立てない予定です。

まとめ

段階増額積立で将来にツケを回すことなく、金額変更の頻度をより低く抑ためためにも、計画期間を長く取った"長期"均等積立方式に移行することをおすすめします。

おまけ

段階増額を完全に否定するわけではありません。比較的早い段階で売りに出すつもりの人は段階増額の方が都合がいいと考えるでしょう。ただ段階増額積立で進めるにしても、計画期間内の段階増額は全て確定し、自動的に適用されるよう制度を整えることを勧めます。

たまたまその年の理事会がまともに機能しないなどの原因で、5年毎の見直しが正常に行えない状況になった場合、通常のやり方だと自動的には修繕積立金額は変わらず低額のままとなり、その時点で段階増額計画が崩れます。その前の見直し時に計画期間内の段階増額が全て確定していれば自動的に金額が変わり、段階増額計画が崩れるのを防ぐことができます。

2019/11/26 19:49