修繕積立金を改定した顛末記

先日、マンション管理組合の臨時総会を開催し、修繕積立金を現行の2.5倍に上げる議案を組合員から承認いただきました。

2.5倍に上げるというと「なんてひどいことをするんだ」みたいな批判を受けかねないのですが、今回の議案では下記の内容を包括的に取り入れています。

どんな内容か

  • 長期修繕計画をかなり深いところから見直し、長期的なコストダウンを図っています。

    • 計画期間を30期先まで(10~40期まで)から62期までに変更しています。
    • 大規模修繕工事の周期を変更し、62期まででは従来案より1回工事回数を減らしています。
  • 長期修繕計画の工事費累計を常に上回るように修繕積立金の金額を計算しています。
  • 段階増額積立から均等積立に移行しています。このため今回の増額は大きいですが、今後の長期修繕計画見直しでは修繕積立金の金額変更は発生しない予定です(発生しないとは言っていない)。
  • 長期修繕計画の見直しは今後も従来通り5年毎に行われます。
  • 管理規約の解釈によって修繕積立金金額の変更が普通決議か特別決議かはっきりしない状態を直し、次回以降は普通決議で変更できるようにします。

この改定内容は修繕委員会と理事会で半年以上の時間をかけ、特に修繕委員の方々には自発的に調べ、考え、手を動かしてもらった成果なので、絶対に総会の承認をもらいたいと思い、事に臨みました。

ここから先は当日までのドキュメンタリーをお送りします。

総会2ヶ月前

午前は修繕積立金改定の説明会、午後は居住者懇親のバーベキュー大会を開催しました。説明会はプロジェクターで私がGoogleスライドで作ったプレゼン資料を映し、さらに細かい内容は手元の管理会社作成の資料を見るという形式で進め、2部構成の第1部は「修繕積立金とはなんぞや」というセミナー的なものを私が話し、第2部は修繕委員3人が交代で今回の改定内容を説明しました。

バーベキュー大会は参加料を取りますが、説明会に参加していただいた方は第1部、2部それぞれ500円ずつ割り引くという制度で説明会への参加を促しました。その結果、参加していただいたのは理事会側の人を除くと10数名程度。思ったより全然少ない…

「次は開催案内に改訂後の金額をズバリ書きましょう。参加者は増えると思いますよ、反対の(声の大きな)人が多くなるとは思いますけど」と管理会社に言われ、悩みながらもとりあえずバーベキューを楽しんでいました。

1ヶ月前

第2回目の説明会は、前回出られなかった人も出られるようにと曜日と時刻も変えました。ちょっと誤算だったのが近所の神社のお祭りが同日の夕方から行われることになっていたので、懇親会は行わず夕方に終わるように時刻を設定しました。

開催通知、案内の張り紙には修繕積立金改定後の金額やポイントをズバリ書き、エレベータホールなどにも貼り出してもらい、どれだけ人が増えるかビビりながら当日を迎えました。

前回と人数はほぼ同じでした。

いや… どれだけ関心がないのよと呆れるしかありません。とにかく来場していただいた組合員の方々には前回と同様のスライド、2部構成で説明をしました。

その翌週

説明会を2回開催しても理事会側でない組合員は1/10程度しか参加しなかったので、ほとんどの組合員はこちらの説明を聞かずに2.5倍への増額を判断することになります。

それでは賛成は望めないので、説明会で使用したスライドから重要なグラフなどを抜き出し、GoogleドキュメントでA4を9枚に凝縮した修繕積立金改定の要約版を仕事の合間を縫って書き上げ、全戸に配布しました。

配布より前にRJC48の勉強会があり、要約版のドラフトを持って数名の方に見てもらったところ、ほんのちょっと指摘があったものの概ねよい評価をもらえたようなので、内容には多少なりとも自信を持って全戸配布しました。組合員に読んでもらえる自信はまるでありませんでしたが。

約1週間前

お金がダイレクトに関わる話、かつ色々な要素を詰め込んだため、最初は反対の声が多くなると予想していました。しかし本当に厄介だったのは「それでも何も関心を示さない人」。出欠通知書の締め切りを臨時総会の8日前にしていたのですが、私が「締め切りまであと◯日」と日めくり状にデザインした張り紙を作ったにも関わらず、締め切り後の集計では回収率は50%強。特別決議は全議決権の3/4の賛成が必要なので、全く話にならない数値です。

回収したうちでも議決権行使書で反対は1/4あり、かなり望みの薄い状態。しかしこの時点で提出していない人は関心が薄いが故に、理事が回収しに行ったらその場で全部賛成に丸をつけて出してくれると踏んで、ひたすら戸別訪問を敢行。この日は80%をちょっと超えるまでになりましたが当日出席者が全員賛成しても必要票数に届きません。 もう胃が痛くなりました。

前々日まで

数日毎に管理会社から回収した結果の集計が報告されるのですが、数%しか回収は進まず、もちろん特別決議が通る気配はありません。

平日なので自分は戸別訪問などに回れず、管理会社に頼むことしかできません。臨時総会のヘルパースライドは仕事の合間を縫って書き上げたのですが、賛成票の少なさを気に病み、総会前々日は完全に体調を崩し寝込んでしまいました。

前日

1日寝込んだおかげでちょっと復調したので、出欠通知書未回収のお宅を回るとともに、議決権行使書で反対を表明している組合員のうち説明会に不参加のお宅を回って賛成に変えてくれないか説明と説得をしようとしました。

管理会社のフロントマンの集計間違いでぬか喜びがあったり、理事なのに反対で出している人がいることが発覚したりと落胆することが何度もあり、心労は増えるばかりです。

午前は修繕委員から2名一緒に戸別訪問に回っていただけたり、反対で出している組合員に伝があるとのことで紹介していただけたりしたので、やはりこの議案は落としたくないと、1日でマンションを4周し、不在のお宅には出欠通知書と督促のセットを新聞受けに立てて回収されたかをチェックするなど、とにかく賛成票を増やすために足で稼ぐ営業の人みたいなことをやってました。

20時過ぎの戸別訪問4周目で未提出の組合員から1通回収、先の伝を頼りに説明に伺って再考をお願いしたところで営業活動は終了。フロントマンに回収できた報告をした1時間後に返ってきた集計では、回収率は95%に達し、当日出席者が全員賛成すると必要票数を4上回るという状況にはなっていました。でも当日出席者が全員賛成するとは考えづらく、「議決権行使書で賛成の数+代理人指定書提出数+当日出席のうち理事会側の組合員の数」が必要票数を上回る「安全圏」には至らないという状況のまま臨時総会を迎えることになりました。

残った未回収の組合員11件には、フロントマンが最後に1回SMSを送ってみると言っていました。

臨時総会当日

会場の準備のため早めに向かうと、フロントマンから「あ、昨日SMSを送った組合員から5通もらえましたー」というのんきな報告が。昨日私がマンションを4周して回収した数より多いじゃん… 更に準備中に管理員に手渡しした組合員もいるようで、最終的には出欠通知書回収率(総会参加率)は97.77%までに達し、先の「安全圏」まであと2票という状況で臨時総会が始まりました。

自分が理事長として開催する総会はこれが3回目ということもあり、いつも通り最初は総会における注意事項を説明しつつ、その中で「居住者としての目線とマンションの共同経営者としての目線、この2つを持って判断してください(あまり自分勝手な物言いするなや)」ということを植え付けて各議案へ。

議案の読み上げは理事が行い、議案のポイントの説明と質疑応答はほとんど理事長が対応するという進行(本当は質疑応答まで理事に任せたいのですが)なので、当該議案の質疑応答が最後の勝負所です。

修繕積立金改定の議案

議案のポイント説明では均等積立に移行することや長期修繕計画の工事費累計に対し資金ショートが起こらないように計算した結果であること、特別決議にした理由といった議案の要約を伝えるとともに、

  • この議案は修繕委員会や理事会が半年以上の時間をかけ、主体的に考えて手を動かした(このマンションではめったに見られない)成果であることを強調
  • 野村不動産のOHANAシリーズや丸紅の常盤松ハウスなど他の事例を取り上げて、今回の設定金額が異常な数値ではないことを示すとともに、こういう最近の情報もちゃんと取り入れて考えているよということ暗示する

といった工夫を入れました。次の事前質問に対する回答では説明会に参加していれば絶対に出てこないような勘違いに基づいた質問に対してはブチ切れて見せたり、出席者からの質問にはほぼ全て即答して見せたりして、いよいよ採決。

結果は、賛成が必要票数を8上回って承認されました。当日出席者の反対は2票…だったかな?

承認していただいたお礼を言うと、出席者からは拍手をいただきました。緊張が少し解けて「はぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」と深いため息をつくと、会場からは笑い声が上がりました。

その他の議案とその他の質問

残りの議案は全て修繕積立金の取り崩し案件で、議決権行使書だけでも承認が確定しているのですが全て先の議案の時と同じように進め、当日出席者からは反対が出ないレベルでスムーズに承認をいただきました。

最後に議案に関係のない「その他の質問」に答える時間を取ったのですが、この時に動き出したのが何かにつけて「ちゃんと相見積もりは取れ、管理会社はもっと仕事をしろ」と暴れ出す、マンション管理クラスタとかでは通称「あいみつ君」とか言われる類いの人。

こういう人の特徴は学習済みでしたので、まず「それは質問ですか、意見ですか?」でその演説を止め、

  • (今文句を言ったことは)管理会社ではなく管理組合の領分です
  • 相見積もりも取り過ぎると、後で業者から見積もりを出してもらうこと自体拒否される恐れがあります
  • それほど気になるなら是非理事になってください

の3点セットで動きを封じました。こういう人は自分ではやらないのに人にはやらせたがる傾向があるので基本的に3番目だけでも効くらしいのですが、ある程度質問にも答えないとねということで3点セットで。後で管理会社から言われたのですが、2番目の話が理事長からさらっと出てきたことに驚いたそうです。

火種をすりつぶしたところで臨時総会はお開きとなりました。

臨時総会後

この日はその後に理事会(出席者不足で流会→報告会になりました)、夕方にはクリスマスツリー飾り付け会と、本当にハードな一日でした。

そしてこの4年ほどうちのマンションを担当していたフロントマンがこの臨時総会の日をもって退職するということで、近くの焼き鳥屋で送別会も行いました。何でも本当は10月末で退職しようとしていたけれど、このとんでもない特別決議のある臨時総会を目前にして辞めるのはさすがにできないとのことで、月半ばの中途半端なところにも関わらず退職時期を調整してくれたのだそうです。本当に助かりました。ありがとうございました。

反省

  • 説明会に参加してもらえなかったのが賛成が伸びない原因の1つだったように思う。説明会の告知や広報を早い段階で出すべき。
  • 1つの議案に色々詰め込むのはやっぱりしんどい。

次のアクション

  • 3月から修繕積立金の金額変更が適用され、そこで滞納が発生する恐れがあるので、未収金の督促を細則にするなどして管理会社が自動的に動いてくれるよう制度を設ける。
  • 転職のスカウトをいただけているので返事をしないと。
2019/11/21 18:23